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2017.12.26

「イノちゃんの大冒険」リック万次郎12月号

11月23日の神戸新聞に「人工島にイノシシ どこから」の囲み記事があり、28日には「お騒がせイノシシ とうとうお縄」とあった。六アイにイノシシが現れたのだ。新聞を読むと不思議に実感が湧く。ポール・ゴーギャンの絵に「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」という有名な大作があるが、イノちゃんはどこから来たのか、どこへ行くのか。

 私は彼女に疑問を投げかけた。

「あんたはどこから来たん?」

 彼女は照れながら話してくれた。

「六甲山です。昔、住吉山手に小磯良平先生のアトリエがあった頃は、ご先祖たちがよく訪ねて行ったそうです。先生が亡くなってから、アトリエがこちらの美術館に移ったそうで、爺さんも、ヒイ爺さんも、そのまた爺さんも、いずれはお訪ねしたい…その悲願を叶えたいと思っていたら、11月18日に、小磯先生の先生だった藤島武二画伯の生誕150年特別展が開かれる…と聞いたもんで、ブヒ(ぜひ)観たいと思って来ました」

 彼女は次第に饒舌になってきた。

「美術館の中には入れたん?」

「お金を持ってないもんですから…。外観だけ拝見しました」

 確か、新聞には17日に目撃されたとあった。

「そうか、無一文か。それで17日に、美術館の辺りをウロウロしていたのか!どうやって六アイに来たんや。泳いでか?」。

 彼女は困惑した顔で、

「私はスイミングスクールに通ってないもので…。島の入口辺りの信号で止まっていたトラックの荷台に乗り込んだんです」。

「無断乗車やないか。ここでは何を食べてたん?」

「ドングリです。あちこちに落ちていますから、すっかり太りました(笑)」

 その時「ボタン鍋かぁ。脂が美味いんだよなぁ」と思った。

「何か?」

「いや、何も…」

 彼女の疑うような目に、私は脂汗をかいてしまった。

「ところでフェリー乗り場の付近で捕まったとか?どこに行くつもりなん?」

「今度は藤島武二先生の故郷、鹿児島の美術館へ行ってみたいと思いまして…」

 やはり彼女の家系は代々芸術愛好家らしい。

「フェリーに乗るにはお金が要るやろ?無賃乗船はあかんよ」

「はい、鹿児島だけに薩摩守・忠度(ただのり)とか言うもんですから…」

 その後のイノちゃんの消息は知らない…。フィクションなのであしからず。

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